奇跡の水

17.11.2015
Farina_gegenueber_-_Firmenschild_(1868)

世界で最初に作られたオーデコロンの成分は、未だ謎に包まれています。誰もが知りたいと願うその門外不出の処方は、何世紀にもわたって広く模倣されてきました。

一方で、オーデコロンの名は今や世界中で知られ、かつては時の権力者たち、現在はごく一般の人々も愛用するものとなっています。

オーデコロンの主成分は、オー・ド・ヴィー(蒸留アルコール)で5%に薄められたエッセンシャルオイルと芳香蒸留水。エッセンスはメリッサ草やマジョラム、タイム、ローズマリー、ヒソップ、ラベンダーの花、アンゼリカの根、カルダモン、ジュニパーベリー、アニス、キャラウェイ、ファネル、シナモン、ナッツメッグ、クローブ、レモンピールを蒸留器に漬けて抽出され、さらにアブサン(あるいはヴェルモット)、ベルガモットなどが加えられます。

現在のオーデコロンが誕生したのは1695年。「アクア・ミラビリス(奇跡の水)」と呼ばれ、ミラノ生まれのジョヴァンニ・パオロ・フェミニの手により作られました。彼は、フィレンツェにあるサンタ・ノヴェッラ修道院で作られた「アックア・デッラ・レジーナ(王妃の水)」を売り出した人物として知られています。やがて、ジョヴァンニ・パオロの甥で、ドイツにあるCologne(コロン)という街で薬屋をしていたジャン=アントワーヌ・ファリーナが秘密のレシピを受け継いだのを機に、“奇跡の水”は驚くほど有名になります。後にジャン=アントワーヌの孫、ジャン=マリー・ファリーナが家業を引き継ぐのですが、ファリーナを名乗るものは後を絶たず、模造品もたくさん作られました。コロンの街では「オーデコロン・オリジナル」という商品も作られ人気を博しましたが、革命前のフランスの王侯や陥落前のナポレオンに愛され、月に60本を使い切る愛用者がいたとも言われるファリーナ製オーデコロンには遠く及びませんでした。

今では、基本となる成分をベースにして、さまざまなオーデコロンが作られています。元になった処方の心地よくさわやかな香りはそのままに、それぞれに個性的なフレグランスを作り出すパフューマーたち。時代も場所も、文化も階級も超えて、オーデコロンはエポックメーキングとなりました。diptyqueはその伝統を、フレグランスライン「Les Eaux(レ ゾ)」を通じて後世に残していきます。