樹林

19.11.2015
La gorge aux loups (détail) - Gustave Courbet (1819-1877)

La gorge aux loups (détail) - Gustave Courbet (1819-1877)

まっすぐ空に向かって伸びていく一本の木。硬くしなやかな枝を広げながら、大地にしっかりと根を張っています。自然界の鼓動をゆっくりと刻み、四季折々の夕日に染まるその姿は色の魔法とも言えるほど美しい。まるで生命を見守る番人のようです。 

木は、その枝を想像の世界にまで広げています。私たちが無意識のうちに使っている比喩的・象徴的な表現の中にも、ひっそりと存在しているのです。たとえば、ルーツ、枝葉、ファミリーツリー(家系図)、情報処理分野における木構造…実際にそこに在るわけではないけれど、あらゆる場面に「木」は登場します。それは、科学哲学者であるガストン・バシュラールが書いたように「人間とは、混沌の中にありながらも忍耐強く立ち続ける樹木のような存在である」からかもしれません。

樹木はその根を下ろす「土」だけではなく、自然界に存在する四大元素すべてと結びつきがあります。詩人ルイ・ギヨームの『古い樫の木』という詩の中に「樹液の火刑柱(bûcher de sève)」というフレーズがありますが、「たった三語で火と水を結んでいる」と賞賛したのは前述のバシュラール。ドイツの詩人、ノヴァーリスもまた、「木とはただ咲き誇る炎である」と書きました。風に揺れる木の葉から「空気」の元素とのつながりを見出すのはそう難しくありません。「絶えず、木は躍動し、そよぐ木の葉は無数の翼」(アンドレ・シュアレス)

樹木はまた、人間の一生などほんのわずかな時間にしか過ぎないことを思い出させてくれます。かつて、リヨテ元帥が開墾地にヒマラヤ杉を植えるよう、ある森林警備隊員に命じたときのこと。その隊員は将軍に「この木は成長が遅く、長生きです」と言いました。そして巨大なヒマラヤ杉の樹々の中でもっとも背の低い一本を指差し、「あの小さなヒマラヤ杉をご覧ください、将軍。あれでも、少なくとも樹齢百年は経っております」。「なんと、百年だと!」将軍は叫びました。「では一刻も無駄にはできん。早く植えろ、植えるのだ!」

樹木の品種や特質を言い表すのにエッセンスという言葉が使われます。パフュームの世界においてエッセンスとは香りを濃縮させた物質のことを指し、その多くは植物から蒸留抽出され、揮発しやすく不安定。さらに、エッセンスという言葉は哲学の世界でも使われています。「卓越した(par excellence)」という意味ですが、物質的な存在ではなく、あるものをそのものたらしめる「本質」を洞察するという意味の”eidetic”から派生した言葉です。樹木は、こうした三つのエッセンスに関わる唯一の存在なのです。

 

クリスマスシーズンの到来を祝して、diptyqueから三種のキャンドルが発売されました。サパン、リキダンバー、オリバンの三種の樹木のエッセンスと樹脂から抽出された香りをベースにした、特別なコレクションです。