感覚のハーモニー

29.03.2016
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「香り立つ香水」という言い方は冗長であるようにも見えますが、あらゆる感覚を呼び起こす『オー デ サンス』を語るにはふさわしい表現かもしれません。肌の上で香り立つオードトワレ。食べものであり、色を表す言葉でもあるオレンジ。すべてを結びつけるにはどうすれば良いでしょう? 

そこに在るのは、オレンジの花や果実の風味、果皮の色や香り、さらには木の枝や葉…それぞれに個性的なこれらのエッセンスが香りのしずくの中に溶け合い、共感覚を導きます。木から花びらへ、花から果実へ。ときに強く、ときにはかなく。ざらざらとした手触りとなめらかな感触。つぼみから開花へ。苦みから甘さへ。成長と共に移ろう色合い。原材料からパフュームへと至る過程…こうした一連のサイクルが、代わる代わる人間の五感に訴えかけるのです。触覚や視覚、嗅覚、味覚、そして、気づきにくいけれど、聴覚にまでも。

心を揺さぶるフレグランスの魔力。それは過去の体験や記憶、あらゆる感覚を融合させ、ひとつにします。『オー デ サンス』の調合に課せられた大きなテーマは、すべての感覚を喚起すること。嗅覚をきっかけに他の感覚、少なくともその記憶を呼び覚ますことにあります。ある音に空の色を感じ、味や香りに音符を感じるというような、ある種の共感覚。花のつぼみから果実に至るまで、ビターオレンジの木から採れるすべてのエッセンスが一体となって完成するフレグランスは、五感を刺激し、その連帯感を高めます。

香水は、実験室で抽出されたエッセンスというわけではありません。試行錯誤の繰り返しからひとつの香りが生まれるまでの物語や背景…そしてなにより、フレグランスとして誕生したそのとき、香りは日々の出来事や気分、人間関係に寄り添い、それぞれの物語の一部となるのです。

五感と共にあるパフューム。優しく、とらえどころのない、その豊穣な香りには、私たちひとりひとりの夢想、言葉、沈黙、イメージ、思い出、希望、感情が混じり合っています。すべての感覚をひとつにして物語を創造すること。それこそが『オー デ サンス』の願いです。