音と色のシナスタジア

26.04.2016
David Hockney - “Snails Pace with Vari-Lites.” (Smithsonian American Art Museum Gift of Nan Tucker McEvoy © 1995-96, David Hockney 2003.31A-X Smithsonian American Art Museum 3rd Floor, East Wing)

David Hockney - “Snails Pace with Vari-Lites.” (Smithsonian American Art Museum Gift of Nan Tucker McEvoy © 1995-96, David Hockney 2003.31A-X Smithsonian American Art Museum 3rd Floor, East Wing)

シナスタジア、音と色の共感覚は、多くの偉大なる作曲家たちに力を与えてきました。音に色を感じるという体験がいかにして彼らのインスピレーションの源となり、作品へと発展したのか。何人か例に挙げてみましょう。

ワイマールの宮廷楽長を務めていたフランツ・リスト(1811-1886)は、オーケストラのメンバーに向かって、自分の作品の演奏を次のように指示したそうです。「みなさん、どうかここはもう少し青く。この色調がぜひとも必要なのです!」さらに「ここは深い紫です。この感じを忘れずに。もっとピンクを弱めて!」真剣な面持ちでその場にいた演奏家たち、彼らの耳を疑い固まってしまう様子が写真に残っていないのは、残念ですね。

ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844-1957)は、自らの作品を色彩に重ね合わせて見ていました。彼にとって、Cメジャーは白、Bメジャーは鋼色にきらめく、悲しく深い青。Eフラットメジャーに関しては、友人のアレクサンドル・スクリャービン(1872-1915)と意見が異なり、コルサコフが明るい青系の色と感じていたのに対し、スクリャービンは赤みがかった紫色、Dメジャーは金茶色と感じていました。象徴主義者であり神秘主義者でもあったスクリャービンは、やがて自らの共感覚をステージで表現すべく、音符や調べに応じて色彩が投影される作品を上演するようになりました。 

ジャン・シベリウス(1865-1957)は、音が色を創り、色が音を生むという、双方向の共感覚を持つ稀有な存在でした。オリヴィエ・メシアン(1908-1992)は、『異国の鳥たち』や『キリストの昇天』、『天の都市の色彩』といった作品を書く際、色彩だけでなく楽器の音の感触や織り合わせまでをも取り入れ、それらを調和させた創作を試みました。 

リゲティ・ジェルジュ(1923-2006)は文字に色を感じていました。彼はこう語ったことがあります。「私は絶対音感の持ち主ではありません。ですから、私がCマイナーはさび色とか赤茶色、Dマイナーは茶色と言った場合は、音階からではなく、むしろCやDの文字に由来するものなのです」。(国際的な音表記では、ドとレの音がCとDに相当する)

デューク・エリントン(1899-1974)は、きわめて洗練されたシナスタジアの持ち主で、その能力は彼の作曲家として、またオーケストラ・リーダーとしての非凡な才能の一端を担っていました。エリントンの楽曲は、ミュージシャンひとりひとりが奏でる音だけでなく、それぞれの独特のタッチやクセまでをも考慮して構成されていたのです。(20世紀に彼のバンドで演奏したミュージシャンは数えきれないというのに!) 

「僕には、オーケストラメンバーひとりひとりの奏でる音が聴こえるのだけど、その色はそれぞれ違っているんだ。同じ音符を演奏したとしても、ミュージシャンが違えば、感じる色も違ってくる。もし音が同じ、色も同じだったとしても、僕はさらに、そこにある手触りのようなものを感知できる。たとえば、ハリー・カーニーが演奏するDは濃い青で、目の粗い麻布の感触。ジョニー・ホッジスが演奏するGの音は、サテンのようになめらかな淡い青色、というようにね」

最後にもうひとつ例を挙げておきましょう。1937年生まれの画家デヴィッド・ホックニーは、絵を描くときに共感覚を利用することはありませんでしたが、オペラの舞台セットや衣装をデザインする際には使っていました。楽曲のサウンドスケープ(音の景色)に合わせて、色彩や照明の濃淡を調整したのです。彼はこの手法を1992年にコヴェント・ガーデンで上演されたリヒャルト・シュトラウスのオペラ『影のない女』で用いました。

音と色を結びつけるという能力は、おそらくだれにでも生まれつき備わっているものなのですが、ほとんどの人は使いかたを忘れてしまいます。しかしながら、この科学的に実証された感覚を失わずにいる人もわずかながらに存在し、中には天才的な能力の持ち主もいます。彼らが、色の楽譜、音のパレットを見せてくれることを期待しながら、耳を傾け、思いをめぐらすことにしましょう。