ジョン・ケージ

13.04.2017
John Cage (1912-1992) en 1988.

John Cage (1912-1992) en 1988.

『4’33’’』は、ジョン・ケージが作曲した、3つの楽章からなる楽曲です。音符のない楽譜、演奏者が音を奏でることもなく続く4分33秒間…。しかし、その静寂こそが、音楽への招待状なのです。

1952年8月29日、名ピアニスト、デイヴィッド・チューダーがピアノの鍵盤の蓋を閉じ、ジョン・ケージの楽曲『4’33’’』を初めて聴衆の前で演奏しました。曲が続く間、チューダーは鑑賞の妨げとなるような雑音を立てないようにして、譜面のページを繰っていました。観客たちのざわめきは、もちろん響いていたでしょうが…。

音楽活動の域を超え、それは芸術作品の在り方を問い、“音”に光を当てる創作行為でした。静寂の中から聴こえる“音”に人々は耳を澄ませます。風の流れ、咳き込む声、衣ずれ…。『4’33’’』が演奏される度に、日常の中にある偶発的な音の連続が、まるでひとつの音楽であるかのように、人々を新たな“音”へと誘うのです。

静寂は存在しない – ジョン・ケージは、ハーヴァード大学にある無響室(床、壁、天井をすべて吸音材で覆った部屋)に自らを閉じ込め、この事実を明らかにしました。こうした体験が、彼の音楽に対する考えを変えたのです。ある時、インドの伝統楽器の奏者、ギタ・サラバイは、音楽の意味を問うジョン・ケージにこう答えました。「心を鎮め、平穏をもたらす。それは神の力を感じやすくなるということ」。そのために音楽は在るのだ、と。

生涯を通じスピリチュアルな体験を探求し続けたジョン・ケージですが、その過程で、さまざまな伝統的宗教や神秘主義に疑問を抱くようになりました。やがて彼は、インドの仏教や中国の道教を起源とする日本の禅と出会い、仏教学者であり禅に関する著作を持つ、鈴木大拙に学びます。禅には、座禅という瞑想法があります。座禅を組むことによって、雑念を払い、心を整える。内面の静寂と平穏を得ることで、外の世界の音を、それが何であるかを問わず、無心の境地で聴くことができるのです。

ジョン・ケージは『4’33’’』の構想に4年以上の歳月を費やしました。『4’33’’』は、現代アートにおいて“静寂”と呼ばれるものを西洋の価値観で表現し、と同時に、芸術はそれを受容する心の準備ができていなければ何の意味も持たないことを改めて教えてくれます。