ジェームズ・タレル:色空間を歩く

30.06.2018
James Turrell - The light inside.

James Turrell - The light inside.

アメリカの現代アーティスト、ジェームズ・タレルは、作品の素材に光を用いています。光は、それが満たす空間とは不可分なもの。同氏の作品は、「見る」というより「体験する」という、非物質的な要素を含み、突き詰めれば鑑賞者の知覚そのものが素材なのです。

ジェームズ・タレルは、数学と知覚心理学の学位を取得した後、芸術修士号を取得し、1969年に最初の光の投影をテーマにした展示を行いました。光を用いたこの実験的手法は、「光の空間」における鑑賞者の体験という意味で、同氏の作品の本質を成すものであり、しばしば「知覚環境」とも称されます。

光は多くの場合、明瞭度、思考および表現の明確さ、地理空間の認識と結びついていることから、ジェームズ・タレルは、角度や境界の設定などの幾何学的思考よりも、陰影や神秘、宇宙を感じる瞑想へと誘うことを作品の目的としています。

ジェームズ・タレルは多作な作家であり、その作品の多くは有名美術館や個人によって収集されています。ジェームズ・タレルの作品は、人工光を用いたものと、自然光を演出し知覚に作用するもの、このふたつに大別できます。両方に共通するのは、光に対して建築的なアプローチを取り入れていることです。前者では投影された光が作品の構造を形成し、後者では「Sky Space」に見られるように、自然光が差し込むことで新たな建築空間を生み出しています。

人工光を用いた作品では、光の線と色の壁が空間を創造し、これらの色が変化することで、身体感覚が失われていきます。これらの作品は、美術館に設置するのに適しており、場所または状況に応じて移動され、再構成されます。一方、自然光を用いた作品には地下にあるものが多く、空から自然光が差し込み、鑑賞者は作品の内部で、自らの内面を見つめます。こうした環境下では、光の持つ神秘性がより顕著に現れます。この種の作品のなかで最もよく知られるのは、米国アリゾナ州フラッグスタッフにある『ローデン・クレーター』です。タレルはこの一帯を購入し、ホピ族の酋長ゲネ・セクワカプタワ(Gene Sequakaptawa)と手を組み、クレーターを掘っていくつもの「光の観測所」を建設しました。これらは、同部族が宗教的儀式に使用していた「キバ(kiva)」と呼ばれる半地下にある円形の部屋から着想を得ています。『ローデン・クレーター』は、タレルのライフワークであり、現在も制作中のため、見学することはできません。

「私の作品には、イメージというものがありません。すでに存在する何かを表現することに興味がないからです。私が関心を持っているのは、内なるビジョンです。内なるビジョンと現実世界、ふたつが交差する場所は、空に開かれた空間のメタファー、すなわち『スカイ・スペース』なのです」そう語るジェームズ・タレルは、いくつかの美術館を含め、世界中で『スカイ・スペース』を設置しています。それは、静謐で飾り気がなく、宇宙を知覚する心の内面を開くもの。『スカイ・スペース』は、「ランド・アート」と呼ばれる芸術のひとつでもあります。

ベテラン飛行士であり、若かりし頃は地図学者でもあったこのアーティストは、科学やテクノロジーにも興味を持ち、神経生物学的観点から知覚を研究しています。また、キクウェーカー教徒として信仰心に篤く、アメリカ人ですがアイルランドにルーツを持ち、1年のうち一定の期間滞在します。これらすべてが、ジェームズ・タレルの作品をつくりあげているのです。そこでは光が深層意識の旅へと誘い、宇宙を照らす敬虔な心が込められています。

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