4つの手を持つ「鼻」

05.09.2017
9

diptyqueの歴史は、信頼によって結ばれた果実。その核となっているのは3人の創業者たちの友情です。長きに渡り絆を広げながら、3人はdiptyqueを発展させてきました。この物語の中心となるのはパフューマー、「Nez(鼻)」と呼ばれるプロフェッショナルたちとの密接なつながりです。

diptyqueが初めて創作した香水、『L’Eau(ロー)』(1968)が発売されてからまもなく50年になりますが、diptyqueと共に「Jus(ジュ)」、香料をアルコールで溶かした原液を手がけたパフューマーは、わずか6人だけです。その中で唯一、もっとも新しいパートナー、セシル・マトンだけは創業者のだれとも会ったことがありません。3人の創業者はすでにこの世を去っていますが、その信念は現代においてもdiptyqueの精神に永遠に存在し続け、私たちが創る香りの中に宿っています。系譜と調和、それこそがdiptyqueなのです。

diptyqueのフレグランスは、ずっと4人の「鼻」たちによって創作されてきました。メゾンの礎を築いたデスモンド・ノックス=リット、そして彼の死後、その役目を引き継いだイヴ・クエロンとクリスチャンヌ・ゴトロ。このふたり亡き後は、ミリアム・バドー。彼女はdiptyqueの商品開発におけるクリエイティブ・ディレクターであり、香水メーカーから指名を受けることも多いパフューマーです。通常の顧客と供給会社の関係では、このようなケースは異例で、まずありえないことでしょう。しかし、そこにはつねに知的創造、発見、互いの立場を超えた対話がありました。長期にわたる冒険に満ちた共創には、想像上の香りという胡蝶を追いかけることが必要不可欠だったのです。diptyqueの嗅覚に調和をもたらすための跳躍台は、人と人との調和。それぞれの香りは、信頼と結束、献身や親愛から芽生えたものといえるでしょう。

デスモンド・ノックス=リットは、長らく香水メーカー『フラゴナール』のセルジュ・カルギンと共に仕事をしていました。デスモンドが香りの配合に関する詩的な発想を提案する一方、カルギンはそれに自身の解釈を加えました。両者は試行錯誤しながら、成分の配合にひねりを加えるなどして、お互いが満足できる香りに到達するまで創作を続けました。延々と議論を続け、ふたりの嗅覚によってようやく浮かび上がる、これらの偶然に生まれた幸せな香りは、当初のアイデアを超えることも多く、彼らを驚かせました。こうしたプロセスは、それからずっと受け継がれています。

彼らに続くのは、ノルベール・ビジャウィ、オリヴィア・ジャコベッティ、ファブリス・ペレグリン、オリヴィエ・ペシュー、そしてセシル・マトン。diptyqueでは、新しい香りのアイデアはすべて、彼らの優れた鼻と呼応していなければなりません。親和性、原材料、創造性について解釈し、まだかたちの見えない香りのデッサンを描いていくのです。今日のdiptyqueには、趣味の良さと美的直観に従うほかなかった先人たちにはかなわなかった香りのテクノロジーがあります。しかし、嗅覚の目指すところは結局、同じです。それはいわば、あらゆる人々が感性を共有できるための共通言語。香りを生み出すには時間がかかります。数々の実験、具体化、成熟、懐疑、内省…。嗅覚の挑戦から香りへと昇華するまでは長い道のりです。創造の過程における香りの解釈は簡単ではなく、それぞれの感じ方を言葉で表現することは困難を極めます。それゆえに、互いの信頼関係がもっとも重要なのです。

diptyqueはおそらく、人と人が“鼻を突き合わせて”、かつ同じ方向を向くことができる世界で唯一の場所です。“鼻の利く”人がいたら、そのすばらしさをぜひ教えてあげてください。