黒を超えた黒

27.02.2018
Pierre Soulages, Peinture 136 x 136 cm, 24 décembre 1990. Copyright: © Christie's Images, 2015.

Pierre Soulages, Peinture 136 x 136 cm, 24 décembre 1990. Copyright: © Christie's Images, 2015.

「1979年1月のある日、私がキャンバスに筆を走らせているとき、気がつくと黒がすべてを塗りつぶしていた」。ピエール・スーラージュの物語は、こんな言葉で始まります。この日の出来事が彼の絵に決定的な方向性を与え、以来それは最近に至るまで、ずっと彼の作品に通じています。このときすでに戦後の抽象絵画における巨匠であり、30年間にわたり研究と実験を重ねていたスーラージュ。その作品は世界中で広く展示されていましたが、その日まで彼は、それが持つ力強さを他の色と対比させるためだけに黒色を使っていました。スーラージュの作品は、白いキャンバスをある種の余白として、また赤色や黄土色、青色などを組み合わせていました。1979年初頭、彼は初めてキャンバスのすべてを黒で埋めつくしました。「次の日、それを妻のコレットに見せると、彼女の反応でそれがまったく新しい絵画手法であることがわかった」。彼はこの手法に、後に自身の代名詞となる名をつけました。「Outrenoir(黒を超えた黒)」。

“Outre”はフランス語で「越える」あるいは「向こう側に」の意。したがって、Outrenoirとは「黒を超えて」を意味します。”Outre-Manche”が「英仏海峡を越えて」、”Outre-Atlantique” が「大西洋の向こう側」を意味するように、Outrenoirは境界を越えて異世界への冒険へと誘います。この「どこか別の場所」で、キャンバスの表面を覆い尽くしながら、黒がいかにして異なる現実、そして新たな思考の世界をもたらすのか、私たちは知ることになります。Outrenoirにおいて、色はもはやキャンバスの上に在るのではなく、それまで何十年も彼が描いてきた絵のように深部から表面に現れるのでもなく、不均一な表面を照らす光の変調から湧き出ているのです。

1979年以降に制作されたスーラージュの作品は、同じ理由で、モノクロームとは考えられていません。目に飛び込む限りない質感のバリエーションが、絵の表面に流れを生み出します。ときにはなめらかに、ときにはナイフやブラシを一定の方向に動かして線状に、また別の場所では、絵の具を厚く塗り、短い溝を刻みながら生まれる絵画。こうしたあらゆる不規則性が光を吸い込み、あるいは反射します。鑑賞者の立ち位置によって、黒は暗く見えたり明るく見えたり、くすんでいたり光り輝いていたり、石炭のような濃灰色であったり白に近い色に見えたりするのです。

したがって、観る者の状態を鏡に映すかのように、どこから見るか、どのように光を当てるかによって、その絵は姿を変えます。解釈もひと通りではなく、決定的な結論はまずないでしょう。その一方、この作品には、構築と破壊を繰り返す宇宙のように見えます。そしておそらく、Outrenoirがもたらす、もっとも刺激的な体験 – それは作品を目の前にして感じる圧倒的な孤独です。