青い花

25.06.2018
Andy Warhol (1928-1987) - 10 Foot-Flowers (1967) (©Christie’s images, 2018).

Andy Warhol (1928-1987) - 10 Foot-Flowers (1967) (©Christie’s images, 2018).

フランス語で「青い花(fleur bleue )」といえば感傷的なロマンティスムのことを指しますが、詩人ノヴァーリス(1772-1801)の小説『青い花(Die blaue Blume)』では、夢と現実がひとつとなって高次の意識を紡ぐと説いた「魔術的観念論( idéalisme magique)」のメタファーとして用いられています。

この『青い花(fleur bleue )』の意味するところは愛する人の面影であり、ノヴァーリスにとっては、短い出会いながらも愛してやまなかった、夭折した恋人ゾフィーのあどけない表情のことです。ノヴァーリスがゾフィーに捧げた愛は、彼女の死を乗り越え、より大きくなりました。愛した人の面影は、創造の扉を開くことになります。「ポエジー」を知覚できる人びとは、そこに超現実的な世界の神秘を見るのでしょう。「私は、目に見える世界における信仰という、興味深い発見をしました(フリードリヒ・シュレーゲルに宛てた書簡)」。こうしてノヴァーリスのポエジーは、神秘主義の域に到達するのです。

この未完の作品の題名にもなっている「青い花(fleur bleue )』は、物語の主人公でありトルバドゥールと呼ばれる抒情詩人、ハインリヒ・フォン・オフターディンゲンの夢に現れます。

「青年は陶然として気分にひたりながらも、ひとつひとつの印象をしっかと意識に刻みつけ、岩と岩の間に流れ入るきらめく水にのってゆっくり泳いでいった。甘い眠気におそわれて、なんとも言い表せない出来事を次から次と夢に見るうちに、また別の光が射してきて目が覚め、気がついたときには、空へとふきあげてはあとかたもなく消えていく泉のほとりのやわらかい芝生の上にいた。そこからやや離れたところに、まだらの鉱脈を露出した濃紺の岩山がそびえ、ふりそそぐ陽の光はいつもより明るくおだやかで、紺碧の空には一片の雲もなかった。このとき青年がいやおうなしに惹きつけられたのは、泉のほとりに生えた一本の丈の高い、淡い青色の花だったが、そのすらりと伸びかがやく葉が青年の体にふれた。この花のまわりに、ありとあらゆる色彩の花々がいっぱい咲きみだれ、芳香があたりに満ちていた。青年は青い花に目を奪われ、しばらくいとおしげにじっと立っていたが、ついに花に顔を近づけようとした。すると花はつと動いたかとみると、姿を変えはじめた。葉が輝きをまして、ぐんぐん伸びる茎にぴたりとまとわりつくと、花は青年に向かって首をかしげた。その花弁が青いゆったりとしたえりを広げると、中にほっそりとした顔がほのかにゆらいで見えた。この奇異な変身のさまにつれて、青年のここちよい驚きはいやが上にも高まっていった…(ノヴァーリス『青い花』)」

青山隆夫訳『青い花』pp.18 岩波書店

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