アビ・ヴァールブルクが語る芸術の残存

30.06.2017
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ソコ・フェイによる寄稿

アビ・ヴァールブルクの「残存(Nachleben)」という概念、それは芸術作品が宿す記憶、そしてひとつの文化の中に存在する別の文化の痕跡を問うものでした。このイメージの人類学においてもっとも実り多い理論のひとつが、異国文化との遭遇から生まれたことを、意外に思われるかもしれません。1895年、米ニューメキシコを旅行中、ヴァールブルクはホピ族に出会うのですが、そこで彼は「異質性」を体験します。このとき触れた「ヘテロトピア(異所)」あるいは「反場所」は、後に彼が西洋美術史の原理を理解する手助けとなりました。「彼らの原始的な文化を学ばずして、ルネサンス時代に関する心理学の礎を築くことなど、到底できなかっただろう」。

自ら参加したわけではありませんが、ヴァールブルクは、毒蛇を口にくわえて踊るホピ族の宗教儀式「蛇儀礼」に興味を持ちました。くねる姿が稲妻の形と似ている蛇は、人間と雨をもたらす神とをつなぐ仲介者であると考えられています。また、脱皮をすることから変化の象徴でもあり、ほかのすべてが消滅しても決して絶えることのない<死からの再生>を表しています。喪失を越えて生命が存続する、このまったく異質な場所でおこなわれる儀式から、ヴァールブルクは、残存という概念を通じて、イメージとそれが持つ矛盾した性質に関する新たな発想を得ました。ドイツ語のNachlebenという言葉には「生きる」を意味するLebenという動詞だけでなく、イメージの再来を強調するかのように、「後に」を意味するNachも含まれています。こうした観点から、ルネサンス文化は、古代文化の再生とは言えません。なぜなら古代文化は未だ消滅などしていないからです。残存とは、今に息づく過去の力であり、近代史に一石を投じ、疑問を投げかけているのです。 

ヴァールブルクのプロジェクト『ムネモシュネ・アトラス』は、表現の残存および移り変わりの視覚化を目的としたイメージの地図帳であり、フィリップ=アラン・ミショー曰く「フィレンツェのルネサンス芸術の名作とインド文化をモンタージュのように統合させ、ふたつの間にある空間的な距離を、過去を浮かび上がらせるメタファー、追憶のイメージの旅へと転換した」ものでした。ヴァールブルクは、ディオニュソスにまつわる美術作品を集めることで、弁証法とアナクロニズム、それぞれが秘めた潜在的な意味に光を当てました。そして、これらが持つ特異性、哲学者ジョルジュ・ディディ=ユベルマンの言うような「飛び交うホタルの光と同じくらい儚い」真実のきらめきゆえに、残存するイメージは、時の流れに抵抗する力を内含しているのです。

 

ソコ・フェイは歴史家であり芸術理論家。パリ第 8大学とEHESS(フランス国立社会科学 高等研究院)で造形美術を教える。著書に“Les vertiges du miroir dans l’art contemporain”(Les Presses du réel 刊 )。

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