ダニエル・ブディネ「色の時間」

18.06.2018
Daniel Boudinet - Réverbère et éclairage nocturne (Ministère de la Culture / Médiathèque de l’architecture et du patrimoine / Dist. RMN-GP © Donation Daniel Boudinet)

Daniel Boudinet - Réverbère et éclairage nocturne (Ministère de la Culture / Médiathèque de l’architecture et du patrimoine / Dist. RMN-GP © Donation Daniel Boudinet)

ジュ・ド・ポーム国立美術館で開催されている写真家ダニエル・ブディネ(1945-1990)の展覧会、『色の時間(Le temps de la couleur)』。ブディネの作品は古典的なスタイルであり、華々しい舞台からは離れています。この写真家は、一瞬を捉えるのではなく、存在の持続性を写真に収めました。

ダニエル・ブディネは、写真を芸術に高めようと努めていました。そのため商業写真とは距離を取り、過去の世代を参考にしながら、往年の写真家のような構図で撮影しました。ブディネは被写体をつぶさに観察し、正確なフレーミングを行い、高度な技術を駆使して頭の中にあるイメージを描き出しています。「1/500秒で撮影した写真も、1/125秒で撮影した写真も、新聞に掲載されるものは、同じシャッタースピードで撮影したように見えます。しかし、個人的には、1/125秒で撮影した写真のほうが、視線を捉える時間を伸ばすことができるという点で興味深いのです」。ブディネは、屋内での写真にもしばしばスローシャッターを使っていました。また、ポラロイドカメラの技術を熱心に研究し、撮影・現像実験を行っています。

ブディネは、感情に訴えることも、何かを伝えようとすることもなく、ストーリー性のある写真を撮ることもありませんでした。その眼差しは、ひとつの風景を線と形の均整がとれたものにしようとする、イメージの設計者のものでした。ブディネの作品のなかでも、風景や建築の静物写真は最も美しいといわれており、そこには同氏の作風が明確に現れています。とはいえ、このような特徴は、アーティストや作家をモデルにしたポートレート写真にも見受けられます。

1960年代から1970年代にかけて、カラー写真といえば広告写真や家族写真がほとんどで、著名な写真家は主にモノクロで撮影していました。ジュ・ド・ポーム国立美術館で開催中の『色の時間(Le temps de la couleur)』では、ブディネの色使いが写真界にどれほどの影響を与えたかを伺い知ることができます。ブディネが特定の被写体の撮影にカラー写真を用いたのは、画像を幾何学化し、実体と質量を与え、それが持つ真実性を表現するためでした。これらの色は、黒や白と同様に、重要なのです。夜になると街は静まり、街灯の光に包まれ、とりわけパリにおいては、写真集『バグダッド=シュル=セーヌ(Bagdad-sur-Seine)』に見られるように、空間に宿る神秘性をカメラで捉える絶好の機会となりました。ブディネはパリ以外にもアルザス、ロンドン、ローマ、ボマルツォ、ヨルダンのペトラ遺跡、タイ、中国、インドなどで撮影を行っています。歴史家のフィリップ・デュボイやフランス建築協会(IFA)、歴史的建造物の保護団体(Caisse nationale des Monuments historiques)から依頼を受けていたことからも、その建築写真の技術の高さが伺えます。

ブディネと親交のあったロラン・バルトは、写真について語った著書『明るい部屋(La chambre claire )』のなかで、この写真家の作品を称賛しています。このふたりは、『Creatis』という写真誌を共同制作したこともあります。オーソドックスながら洗練されたブディネの写真は、アーティストや著名な作家、優れた審美眼を持つ評論家たちに認められていました。しかし、その簡素さや外連味のなさゆえに、大衆の興味を引くことはありませんでした。

「これは、自然主義と美学という、ふたつの奈落の間に引かれた一本の線である。私の見るに、D.B.(ダニエル・ブディネ)がどれほどの正確さ、力強さ、繊細さをもって、それを成し遂げたのかを語る前に、私はその線を引かねばならなかった」(ロラン・バルト)

展覧会『色の時間(Le temps de la couleur)』は、2018年6月16日から10月10日まで、パリのジュ・ド・ポーム・国立美術館にて開催されます。

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