絵文字のストーリー2

16.02.2016
Emoji Dick par Fred Benenson (Licence Creative Commons : Attribution 2.0)

Emoji Dick par Fred Benenson (Licence Creative Commons : Attribution 2.0)

絵文字、それは進化した衛兵。表情豊かな生き生きとした黄色い顔に率いられ、行動を表すものに始まり、コーヒーカップから銀河系の星々まで、図案化された数々の部隊が並びます。インターフェースの仲介役であり、ハイパーインタラクティブな世界において不可欠な役割を果たしています。

1851年に出版された、ハーマン・メルヴィルによる『白鯨』。知的かつ詩的な文章で描かれた深遠なる人間の苦悩に引き込まれます。ここであの天才作家を批評するつもりはありませんが、この小説を絵文字に置き換えてみるとどうでしょう。あのハーマン・メルヴィルでさえ見過ごしていた何かに気づきます。一体、何のために頭を悩ませていたのか?これほどシンプルに伝えられることだったのでは? :-/

果たして、言語だけが表現手段なのでしょうか?ここに絵文字の使えるキーボードがあるとしましょう。旧石器時代の原人たちから狩猟採集民に受け継がれた表意文字の下に並ぶのは、小さな顔文字。QWERTYやAZERTY配列のキーボードはすでに過去のものです。電話やインターネット、書籍…もちろん、絵文字による映画も制作準備中です。絵文字は著作権の存在しない、いわゆる「オープンソース」であるため、投資家たちも積極的。ところで、ソニーが映画化権を獲得しましたね。

ジョークはさておき、決して絵文字を否定しているわけではありません。これらの新たに登場したキャラクターたちが国籍や文化的背景を超えて広く親しまれているという事実は一考に値しますし、私たちが日々感じている思いやさまざまな事象を記号化することで、新たな発想も生まれます。今のところ、絵文字はただの小道具に過ぎないようにも思えますが、いずれその数は自然と絞られ、私たちの習慣や行動を形作るようなり、共通認識として定着するでしょう。たとえばネット社会ではいくつもの複雑化したパスワードが要求され、結局ひとつも記憶できない…。しかし、絵文字によるパスワードなら有り余るほどの膨大な数の組み合わせが可能、かつ覚えやすい。というのも、脳は文字よりもイメージのほうが記憶しやすいからです。私たちは情報をイメージと関連づけることで知識を身につけます。絵文字はいつか教育の分野でも興味深い役割を果たすことになるかもしれませんね。

同じようことは創作アプリの世界でも起りえます。自分の顔写真から絵文字をつくることのできるソフトウエアがあれば、ちょっとした話のネタになるし、笑いを誘うこともできそう。こうしたインタラクティブな遊び心はまた、ある変化をも予感させます。 アメリカで『Don’t emoji and drive(絵文字を打ちながらの運転はやめましょう)」という交通安全キャンペーンが行われましたが、これはとりわけ的を射ています。深刻な事故を引き起こしかねないドライバーへの警告というだけではなく、巨大な絵文字ゲームの世界から、インターフェースのない現実世界へと引き戻してくれるからです。

ここで、おもしろいアニメを紹介しましょう。おそらく一番大切なのは、絵文字を使用するか否かという選択肢があること、そして、画一的な表記にとらわれないこと。ハーマン・メルヴィルの小説*に登場するバートルビーという青年が、絵文字の蔓延に対する解決策を提案しています。彼は雇い主の指示をはっきりと拒否するのではなく、こう答えるのです。「やらずにすめばありがたいのですが」。対立することなく要求から逃れてしまえば、相手には打つ手がありません。*1853年に発表されたハーメン・メルヴィルの小説『バートルビー』(『代書人バートルビー ウォール街の物語』から改題)。

 

ファッションデザイナー、オランピア・ル・タン(Olympia Le-Tan)とのコラボレーションによる香りのコレクション『ロサヴィオラ(Rosaviola)』。テーマとなったのは「La clef de mon coeur est dans mon sac “私の心の鍵は、バッグの底にあります”」。フレグランスキャンドル、香りのオーバル(フレグランスワックス)、ソリッドパフュームの発売に伴い、女性のバッグの中に潜む女心を表現したオリジナル絵文字アプリ『diptyque emoji』をリリースいたしました。こちらからダウンロードして頂けます :-)