神話における絵画

31.07.2018
Jean-Baptiste Regnault  (1754–1829) - L'Origine de la peinture.

Jean-Baptiste Regnault (1754–1829) - L'Origine de la peinture.

写真とは、暗箱の中で光が結ぶ像のこと。そして絵画とは、その神話的な起源において、顔の影を壁に投影したものであったといわれています。最初は、顔の輪郭をなぞっただけで、造作はわからないという、奇妙なものでした…。

古代ローマの文筆家プリニウス(23〜79年)によって記された神話を引用すると、絵画は、ひとりの娘の愛とひらめきから誕生したようです。その娘は、間もなく戦地に赴く青年に恋をしていました。彼女は青年が眠っている間、後ろからランプの灯りをあて顔の影を壁に映し、「輪郭を線でなぞり」ました。このコリントスの乙女は、シュキオンの陶工ブタデスの娘でした。父親は、肖像を粘土で型取りレリーフを作ると、ほかの陶器とともに焼いて固めました。つまり、これは塑像、すなわち彫刻の起源でもあるのです。

フランスの古代ギリシャ学者であり神話学者のフランソワーズ・フロンティジ=デュクルーは、プリニウスの著書から別の例を挙げ、絵画の起源が輪郭であることを裏付けています 。「絵画の起源は定かではなく、本書では取り上げない。エジプト人たちは、6000年前、ギリシャに渡る前に、自国で生み出されたと明言しているが、これは根拠のない主張である。ギリシャ人のなかにも、シュキオンで発明されたというものや、コリントスだというものもいるが、それが男の顔の影の輪郭をなぞったものであるという点で、いずれも一致している。したがって、これが絵画の第一段階ということになるが、次の段階では、これよりもはるかに複雑な手法である、一色で描く「モノクローム」が取り入れられた。これは今なお用いられている手法である」(『博物誌 第35巻151』)。ところで、アルベルティ、ヴァザーリ、ダ・ヴィンチといった、イタリア・ルネサンスの巨匠たちもまた、デッサンおよび絵画の起源は影であると語っています。

この伝承は、ギリシャ語で汚れなき乙女を意味し、後に瞳孔を指すようになった「korê」という言葉の多義性に起因するという主張もあります。

コリントスの娘の存在は、絵画が愛から生まれたことを示唆しています。愛からインスピレーションを受けて、彼女は恋人の面影を留める方法を思いつくのです。けれどもそれは、輪郭を正確に捉えているとはいえ、現実を写し取ったものではありませんでした。形象化の目的は現実を象徴的に表現することとされ、芸術において絵画の本質が模倣にあると考えられるようになったのは、もっと先のことです。影の存在意義も、そこにあるといえるでしょう。

「korê」という言葉からは、ギリシャ人が人間の視覚について理解していたことがわかります。瞳孔には対象が反射して映りますが、ギリシャ語では、反射像と影は密接に関係しています。一方で、古代ギリシャの哲学者のなかには、眼という器官を半透明の壁に守られた、伝承におけるランプが象徴する炎に喩えるものもいます。コリントスの娘はそのとき、恋人の反射像(影)を記憶に留めようする、そんな「眼」のような存在だったのではないでしょうか。

ことあるごとに引用される、プリニウスの伝えるこの神話は、見かけほど単純ではありません。絵画というものは、その起源からもわかるように、現実をなぞるものであり、対象を完全には再現できないからこそ、今もって謎めいています。このような見方は、「portrait(肖像)」という言葉にもできます。その語源は「pour traire」。「traire」には、線を引くという意味があり、これもまた興味深いところです。