照明のデザイン

20.10.2016
Lampe PH1 par Poul Henningsen

Lampe PH1 par Poul Henningsen

やさしい灯りの誕生とその後

建築家や作家としても活躍していたデンマーク人デザイナー、ポール・ヘニングセン(1894-1967)が初めて照明をデザインしたのは1924年頃。電球が公共の場だけでなく家庭でも使われ始めた頃でした。オイルランプの灯りで育ったヘニングセンは、子供時代のやわらかな光を再現しようとしました。彼の作品はいずれも、電球のまぶしさを和らげ、また光の流れを特定の方向に導くように設計されています。当時の照明器具に使用されていたのは、あらゆる方向に光が拡散するガラス製の電球で、シーリングライト(天井照明)やフロアランプの電球はむき出しのままでした。1925年、ヘニングセンはデンマークのルイス・ポールセン社の協力のもと3種類のランプシェードをデザインし、パリで開かれた国際博覧会に出品しました。これがPHシリーズの第1作目であり、後にフットライトやブラケットライト(壁に取り付ける照明器具)もコレクションに加わりました。中でも最も有名なのはPH5でしょう。凹面と凸面が4層になった金属製のシェードからなるランプで、その後さまざまなカラーバリエーションが登場しました。 

第二次大戦中、急進的な政治志向を持っていたヘニングセンはスウェーデンに逃れていましたが、デンマークに帰国してからは、照明デザインを手がけ続けました。1957年に発表された「PHアーティチョーク」は、初期のPHシリーズの系譜を継ぐ斬新かつ洗練されたデザインで、72枚の銅製のシェードは機能的でありながら有機的な美しさも感じさせます。

フィンランド人建築家・デザイナー、アルヴァ・アアルト(1898-1976)はポール・ヘニングセンの友人であり、彼の作品を熟知していました。狂騒の20年代に設計されたアアルトの初期のモダニズム建築、そして本人の自宅にもPHランプの灯りがともっていました。1930年代になると、アアルト自身も近代的な照明器具をデザインし、自身の会社Artek(アルテック)で製作しました。最も知られているのは、1937年のパリ万国博覧会に出品された「Cloche D’or(金の鐘)」です。デンマークの同業者たち同様、アアルトも使う人の心地よさを追求していましたが、それ以上に照明の醸し出す温かな雰囲気を大切にしていました。「Navet(かぶ)」、「Myrtille(ブルーベリー)」、「Grenade a main(手榴弾)」といった彼の作品は、ヘニングセンの照明よりもさらに照らす範囲を限定したものでした。アアルトは、温かみのある光を演出するため、真ちゅうのコーティングやリング状の透かしをよくデザインに採用していました。

1950年代はアアルトが最も多くの照明器具を制作した時代です。その作品は多岐にわたり、屋内外を問わず、公共の場や個人の住宅を彩りました。白く塗装した繊細な金属片を重ね、やわらかく広がりのある光を生み出す「Aile d’ange(天使の羽)」。「Ruche(蜂の巣)」という名のシーリングライトは、彩色した金属板と真ちゅうのボールで作られ、上下左右に光を通します。1959年、ギャラリーオーナーのためにパリ近郊に建てられた「Maison Louis Carre(ルイ・カレ邸)」にも、さまざまな照明効果が駆使されています。たとえばダイニングルーム。いくつものCloche d’orが、壁にかけられた絵画をドラマティックに照らします。 

ポール・ヘニングセンとアルヴァ・アアロン。共に、心地よさ、やわらかさ、陰影、そして雰囲気(空気感)に焦点を当てた二人は、20世紀の照明デザインに多大な影響を与え、今なお私たちの家を照らし続けているのです。

 

Asdis Olafsdottir

デザイン歴史家、「Maison Louis Carre」ディレクター