旅について

12.05.2016
Carnets de Desmond

Carnets de Desmond

旅とは風景の変化です。すなわち、日常から離れた場所を訪れること。旅をするには二通りの方法があり、ひとつは、ある場所から別の場所へ物理的に移動するというもの、そしてもうひとつは、その場に居ながらにしてできる空想の旅です。実際には、旅ではなくただの移動になってしまっていることも多いのですが…。

アンドレ・シュアレスは、「旅の主役は旅人である」と著書『Voyage du Condottière(傭兵隊長の旅)』の冒頭に書きました。「なぜなら、人生におけるかけがえのないものすべてと同様、美しい旅は芸術品、作品であるからだ。(中略)人は生きていることを実感するために旅をする。訪れた国はすばらしい体験をもたらし、それが旅行者を豊かにする。旅の途上には日々発見があり、旅する者の人間性を深めるのである」。また、国内外の雑誌に寄稿していた旅行家のニコラ・ブーヴィエは、こう話しています。「だからこそ旅人は、旅について語るのだ。まだ見ぬ場所、未踏の地との距離を知るために」。

旅において大切なのは、普段の習慣や基準、考え方から自らを解き放つこと。異なる言語、異なる風習、親愛(あるいはまた別の感情の)表現の違い…別世界の流れに身をまかせ、いつもと違って見える色彩に浸ることです。詩人のジャン・タルデューは「もし振り返ることなく立ち去れば、間もなく私は自分自身を見失ってしまうだろう」と書きましたが、別の詩人、レオン=ポール・ファルグは何気ない調子でこう応えています。「君は、この場を去りさえすれば自由になれると考えているようだ。しかし、君はまだ部屋履きを履いたままだよ」。

心に留めておいてほしいのは、どこか他の場所へ飛び立つには、ろうそくに火を灯す、あるいは香水をさっとひと噴きするだけで十分かもしれないけれど、そこにはある種のリスクが伴うということです。問題は、それに気づくかどうかは別にして、この旅があっという間に頂点に達してしまうこと。今いる場所であれどこか他の場所あれ、自宅であれはるか遠い地であれ、それは自分自身の中に在る異国に過ぎません。香りによって呼び覚まされるのは、これまでの人生で経験した出来事や旅の記憶に過ぎないのです。それだけでは、ほんとうに「旅をした」と言うのは難しいのかもしれませんね。

再び春がやってきました。diptyqueが掲げるテーマは「旅」。三人の創始者たちは、見識を広めるため、また美術品や工芸品を求めて、世界中のさまざまな場所を旅してきました。それは、人生を思いっきり生きて、感じるための旅でもありました。かつて、遠い異国からの品々であふれていたdiptyque初めてのブティック。やがてここから、居ながらの旅人たちを異国へと誘うフレグランスが生まれます。「旅行かばんを持たない旅は旅ではない」という人たちのためには、かばんに忍ばせるのに便利なミニサイズの製品も幅広く取り揃えています。