懐かしの船旅

28.05.2016
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豪華客船、漂うノスタルジア ギヨーム・モレルによる寄稿

その香りは、diptyque創業者の一人、イヴ・クエロンが『フェリクス・ローセル』号や『ダルタニアン』号に乗ってサイゴン(現ベトナム・ホーチミン)へ渡った船旅の思い出から生まれました。2012年、『Volutes(ヴォリュート)』と名付けられたこのフレグランスは、タバコとスパイス、蝋、ハチミツ、ドライフルーツがアクセントとなった、かつて彼が体験した旅を想起させる繊細でオリエンタルな香り。漂うノスタルジアは、ジェネラール・トランスアトランティーク社の所有していた『ノルマンディー』『フランス』『パリ』をはじめ、『アマゾン』『シャンポリオン』『ジョルジュ・フィリパール』などの客船が成し遂げた途方もない冒険を彷彿とさせます。

こうした船舶は、19世紀後半から1970年代にかけて、贅沢な暮らしと環境の変化を求める何百万人もの旅行者や移民、ビジネスマン、貧しい学生、裕福な家族を運びました。最初にル・アーヴルとニューヨークを結ぶ大西洋横断船(飛行機が登場するまで、大西洋を渡る唯一の交通手段)が就航し、20世紀初頭から二、三十年の間に、ギリシャ、エジプト、アルジェリア、モロッコ、日本、中国といった、より“エキゾチック”な地へと向かう新たな航路が開設されました。

旅行やレジャーがブームとなった1920~30年代、海運会社は乗客の心に残るインテリアやサービスを提供するようになり、黄金期を迎えます。素晴らしい食事やワインを供する広々としたダイニングルーム、音楽室、喫煙サロン、劇場や映画館、ブティック、バー、スイミングプール…当時の客船は、まさに洋上に浮かぶ宮殿でした。中でも、もっとも豪奢な船として知られるのが、1935年に就航した『ノルマンディー』号。ピエール・パトゥ、アンリ・パコン、ルネ・ラリック、ポール・ジューヴ、ジャン・デュナン、ジュール・ルルーをはじめとする当時の名だたるデコレーターたちが、アールデコの傑作といわれるこの船の装飾を手がけました。 

 

『Paquebots, l’art du voyage à la française (客船、フランス流の旅の極意)』 Guillaume Morel(ギヨーム・モレル)著、 Place des Victoires刊

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