宇宙のフェニックス

05.12.2017
Philippe Baudelocque - Phoenix

Philippe Baudelocque - Phoenix

南の空、アケルナルと呼ばれるエリダヌス座α星の西、ろ座とちょうこくしつ座の下に、ほうおう座はあります。つる座を西に、きょしちょう座を南に従え、みずへび座の角と接しながら、この遠く離れた星座は、もっとも明るい恒星である赤色巨星アンカに照らされ、羽ばたいています。

ほうおう座は、初めてそれを観測したアラビアの天文学者たちには若いダチョウ(Al Ri’āl)、後にはグリフォン(鷲の頭と翼、ライオンの体を持つ架空の生き物)、最終的には鷲であるように見えました。エジプトで活動していたギリシアの天文学者プトレマイオスによって作成された星座表をもとに、8世紀後の960年、星図にしたことで知られるアル・スーフィーは、ペルシアのシーラーズからこの星座を観測していたことから、それがアラビアの船のように見え、「船の輝く星」を意味する「Nair al Zaurak」と名づけました。

近代になって、この星座は新たな飛躍を遂げます。16世紀末から17世紀初め、航海士であり南天の星図の製作者でもあったペーテル・ディルクスゾーン・ケイセルとフレデリック・デ・ハウトマンのふたりが、星と星を結び、目には見えない線を再び発見したのです。フランスの天文学者ニコラ=ルイ・ド・ラカイユが、1756年、その中でもっとも明るい星を特定しました。ヨハン・バイエルが1603年に出版した『ウラノメトリア』には、その想像上の特徴からフェニックス(不死鳥)の名で収録されています。ほうおう座は、赤緯−39.31から−57.84°の間、赤経23h26.5mから02h25.0mの間に位置しています。Phoenix(フェニックス)はギリシア語で、灰から蘇る神話の鳥を指し、ペルシア語でSimurgh(シームグル)、ヘブライ語でKhol(コル)、中国語でFenghuang(鳳凰)、アボリジニの言葉でMinka(ミンカ)、ネイティブアメリカンはThunderbird(サンダーバード)など、さまざまな呼び名を持っています。ほうおう座は、つる座、ごくらくちょう座、きょしちょう座と共に「南天の鳥」を形成しています。

北半球の空からは、地平線に近すぎるため、その姿をはっきりとらえることはできません。しかし、夏のオーストラリアや南アフリカからは、非常によく見えます。唯一アンカ(アラビア語でフェニックスの意で、学術的には、ほうおう座α星)だけが北緯40°の位置で観測できます。この赤色巨星は、将来的に白色矮性となってしまうことがわかっています。ほうおう座にはいくつかの銀河団があり、そのひとつが同じ名を持つフェニックス銀河団で、幅は約730万光年。ふたつの銀河団が衝突合体したことで生まれ、計測不能なほどの星間ガスを噴出している、エルゴルド(ACT-CL JO102-4915)よりは小さいですが…。

ほうおう座の方角には、衝突する過程にある4つの銀河が集まったロバートの四つ子銀河が位置しています。ほうおう座では10の恒星が惑星系を形成しており、そのひとつ、HE0107-5240はこれまで発見された星の中でもっとも古いとされ、その起源については多くの科学的関心が寄せられています。そのほかにはHLX-1があり、これは中間質量ブラックホールです。さらに、この星座ではふたつの年に流星群が観測されています。

ほうおう座は、ただ平均的な大きさの星座というだけではありません。天文学者は、この星座を「天体に乏しい」と評しており、さらに言えば、非常に明るいというわけでもありません。でも、驚くにはあたらないでしょう。実際に不死鳥が灰の中から蘇るのを見た者がいるでしょうか?この生き物は、見つけるのが難しいことで有名なのです。唯一、赤く輝くアンカだけがその存在を示しています。なぜならギリシア語でフェニックスは「真っ赤な血」という意味なのですから。