女性のバッグの中身

25.02.2016
© Nick Veasey

© Nick Veasey

女性のバッグの中身 ジャン=クロード・コフマンによる寄稿

バッグはありふれたモノではなく…

バッグはただのモノではありません。ファッションの小道具ではあるけれど、装飾品というわけではなく…。その深部を探ってみれば、そこには心の奥にしまいこんだ秘密と理想の自分像が交錯する、広大で魅惑的な宇宙が広がっています。人々はバッグの中に細々とした必需品を何から何まで手当り次第に放り込むので、当然、鍵が見つからない(大きなキーホルダーが付いているのに!)、携帯電話がない…という事態に無駄な時間を費やして、いらだつこともあるでしょう。 

それぞれの個性を完璧なまでに映すバッグの中身。そこには思いもかけない宝の山、感情の金塊が無数に隠されています。バッグの中は小さな愛の世界であり、取るに足らないと思われるさまざまなモノたちが、あなたにまつわる美しい物語を語るのです。

バッグの中に石?

女性のバッグの真髄を知る上で、もっとも重要な鍵となるのは、おそらく「石」でしょう。バッグの中に「石」?そうです。もっとも、私の調べたところ、バッグの持ち主たちはそれを「石」とは呼んでないようですが…。小石や貝殻、数えきれないほどの奇怪な小物。ぬいぐるみや、鍵にじゃらじゃらと付けられた、鍵そのものよりもずっと大きなキーホルダー。かなりの重さになるはずですが、どうしてこんなにいろいろなものを持ち歩くのでしょうか?いったい何に使うの?実用性だけを考えたなら、女性のバッグの中身をまったく理解できないのはあたりまえ。なぜならそこは、こだわりや懐かしい記憶、親愛に満ちた感傷的な世界だからです。愛情は数えられません。愛の重さは量れないのです。

ここでいう「石」とは、長い間取っておいた写真や古い手紙のようなものです。いつの日か心を温めてくれる、うっとりするようなコレクション。バッグの中で、時が経っても変わらず、幸せな瞬間を刻んでいます。そうしたモノたちがもたらすものに比べれば、重さなど問題ではありません。大切なのは愛すべきもの、心揺れる思い出や美しいひとときだけなのです。

バッグの中には、他者と切り離された自分だけの小さな宇宙が在ります。飾り気がなく、他人の目や評価もお構いなしで、見た目やお仕着せの礼儀作法とも無縁。ささやかな秘密、それはきわめてシンプルながら、とても私的な世界です。

男女の違いは実はそれほどないのかもしれませんが、男と女はそれぞれに象徴的な世界、別々の流儀、二つの相反するものの見方を持つとされています。そうした差異は記憶に深く刻まれているので、逃れることは難しいでしょう。女性の持つバッグもそのひとつです。興味深いのは、バッグがこの世に登場してまだ数世紀、女性らしさが顕著になったのは近年のことだということです。

バッグは、決してありふれたモノではありません。ただありふれて見えるだけ…。

 

ジャン=クロード・コフマンは、社会学者およびCNRS(フランス国立科学研究センター)主任調査員。著書に『Le Sac. Un petit monde d’amour(かばん、小さな愛の世界)』。