初めてのオードトワレ

12.04.2016
L_EAU

デスモンド・ノックス=リットは、高く評価されながらも長らく忘れられていた処方にインスピレーションを得て、diptyque初めてのオードトワレ『L’Eau(ロー)』を創りました。性別を問わず愛されるスパイシーなその香りには、混沌とした時代の空気や異国情緒への憧れが感じられます。

1961年のオープン当初、diptyqueのブティックでお客様にすすめていたのは英国製パフュームでした。当時のパリでは、おそらく英国製のフレグランス商品を扱う唯一の店だったと思います。そのひとつが、乾燥させたオレンジにインドネシア産クローブを刺して作られるカルペパー製のポマンダー(香り玉)でした。

参考までに申し上げておくと、ポマンダーとは元々、竜涎香(マッコウクジラの腸内で生成される香りの強い物質)などの材料を練って丸めたもので、人々はそれを身につけたり持ち歩いたりしていました。やがてポマンダーという言葉は“香りの入れ物”を意味するようになり、金や銀による細工が施された装飾品、または特別な贈り物として、非常に高価だった竜涎香と同様に重宝されるようになります。16世紀以降は植物原料を配合した室内用のフレグランスをポマンダーと呼んでおり、その多くは柑橘類にクローブやスパイスを散りばめたものでした。

ブティックの上階にあるアトリエでdiptyque初めてのフレグランスキャンドルの調香に取り組んでいたデスモンド・ノックス=リットは、気がつけばオリジナルのポマンダーペーストの製作にも着手していました。それは、シナモンや薔薇、クローブ、ゼラニウム、サンダルウッドなどの香りが配合される16世紀のイギリスのレシピにインスピレーションを得たものでした。この魅惑的な香りのペーストを香水にするというアイデアを思いついた彼は、それをパフューマーの元に持ち込み、アルコールを加えてフレグランスへと生まれ変わらせます。こうして、diptyque初のオードトワレ『L’Eau(ロー)』が誕生したのです。

ジャンルを超えて、使う人のスタイルを表現する『L’Eau(ロー)』。スパイスを使った香りが珍しかった時代、このオードトワレは従来の概念を覆すものでした。後に続くdiptyqueのオードトワレの原型であり、O(オー)の響きを持つその名も受け継がれていきます。異国をめぐる、あるいは懐かしい記憶をたどる旅へと誘うミステリアスな香りは、ただエキゾチックというだけではなく、他のどこにもない個性と当時の高揚した気分を今に伝えています。