ペーター・クーベルカ:『アーノルフ・ライナー』

19.04.2018
Peter Kubelka, Arnulf Rainer, 1958-1960, 35mm, nb, son, 6:14min( Copyright Peter Kubelka)

Peter Kubelka, Arnulf Rainer, 1958-1960, 35mm, nb, son, 6:14min( Copyright Peter Kubelka)

映画史に名を残すオーストラリア人アーティスト、ペーター・クーベルカは、緻密な実験映像、そして数学的手法や音楽を取り入れた構造論で、映画に革命を起こしました。クーベルカは1954年から2012年にかけて、35mmフィルムと16mmフィルムで合計1時間の映像からなる8本の短編映画を撮影しましたが、これらは今なお、20世紀の映像芸術におけるもっともラディカルな作品として知られています。1960年、同じくオーストリア出身の画家、アーノルフ・ライナーが出資した映画『アーノルフ・ライナー』で、クーベルカは映像をこのメディアのもっとも基本的な構成要素である光、闇、沈黙とノイズのみに削ぎ落とし、極めて純粋なかたちで表現しました。“メトリック(韻律的)”と呼ばれるシリーズの3作目『アデバー』(1956-1957)や最終作『シュベヒャター』(1957-1958)と同じく、『アーノルフ・ライナー』はカメラや編集機を使わずに制作されましたが、前述の2作とは異なり、実体のあるものは何ひとつ登場しません。35mmの黒コマと白コマ、そこに、ひとつはノイズに溢れ、もうひとつは無音の2種類のサウンドトラック。『アーノルフ・ライナー』は緻密に構成されたコマ割りのみで成立し、それは望むならば無限に複製できることを意味しています。光や音、あるいは静寂を映した、この6分14秒の抽象作品における調和(リズム)とシンクロニシティ(映像・音)は、視覚や聴覚などの感覚を凝縮そして解放することにより、完全なる知覚体験を生み出し、その厳格な構成のなかに官能性を感じさせます。1秒間に24回スクリーンで明滅し、稲妻のように鑑賞者の目をくらませる白い光。映画館の暗闇、耳をつんざくホワイトノイズと対照的な静寂、ふたつのサウンドトラックが入れ替わることで発生する音割れ…。ペーター・クーベルカは、この作品によって現実を記録するという使命から映画を解放し、光と影をただ純粋に表現することで、時間を超越した体験、すなわち「秒速24回の高揚感(エクスタシー)」を創造したのです。