ヘンリー・フォックス・タルボット

13.09.2016
William Henry Fox Talbot - Adiantum Capillus-Veneris (Maidenhair Fern), probably early 1839. Photogenic drawing negative 22.5 x 18.3 cm
Courtesy of Hans P. Kraus Jr., New York

William Henry Fox Talbot - Adiantum Capillus-Veneris (Maidenhair Fern), probably early 1839. Photogenic drawing negative 22.5 x 18.3 cm Courtesy of Hans P. Kraus Jr., New York

ヘンリー・フォックス・タルボット(1800-1877)「フォトジェニック・ドローイング」 

このシダの葉の写真は、英国人ヘンリー・フォックス・タルボットが実験のために撮影したものです。おそらく、彼が紙に焼き付ける写真技法の発明を発表した1939年に撮られたと思われます。写真といっても、当時のそれは、今日私たちが考えるようなカメラで撮影したものではなく、いわゆるフォトグラムと呼ばれるものでした。タルボットは、レースや植物のような繊細な輪郭を持つ小さな物体を、硝酸銀溶液を染み込ませた紙の上に置き、感光させました。被写体を太陽の光に一定時間晒した後、それを取り除くと、鮮明なシルエットが暗い背景から浮かび上がるのです。それから試行錯誤を繰り返し、もっとも適切な露光時間が決められました。 

タルボットは、フランスの発明家、ニエプスやダゲール同様、写真を発明した人物として知られています。ダゲールがニエプスと共にダゲレオタイプ(銀板写真)と呼ばれる撮影技法を完成させようとしていた頃、タルボットは彼らの研究について何も知らなかったのですが、偶然にもウイルトシャー州ラコック・アビーにある自宅で紙をベースにした写真術の実験を行っていました。当初、彼が興味を抱いていたのは植物学や数学、旅行などでしたが、1824年、著名な科学者ジョン・ハーシェルとの出会いによって、物理学や化学への情熱がかき立てられました。彼がアイデアを思いついたのは、1833年、イタリア・コモ湖への新婚旅行中のこと。当時の画家たちが自然の風景をスケッチする際に使っていたカメラ・オブスクラという装置から投影される画像を、化学的な方法で写し取ろうという発想でした。1830年半ば頃、タルボットはこの実験に成功します。人間の手が加わることなく描かれた最初の画像が誕生した瞬間でした。その製造方法ゆえ、初めはフォトジェニック・ドローイングと呼ばれていましたが、後にフォトグラフィーと名付けられました(ギリシャ語で「光で描かれた」という意)。 

植物標本や自然科学者の描くスケッチにも似た繊細で小さなシルエットは、写真の発明、この偉大な革新的技術の記念すべき最初の一歩となったのでした。

 

シルヴィ・オーブナ:写真史家、フランス国立図書館・版画写真部門ディレクター