ファブリックから始まった

30.10.2015
Pretorien Bleu

Pretorien Bleu

Choriambe(コリアン)、 Paladin(パラディン)、 Fabliau(ファブリオー)、Légende(レジェンド)、Basile(バジル)、Sarayi(サライ)、Prétorien(プレトリアン)。夢の中へと誘うような、中世を思わせる古めかしい響きを持つこれらの言葉は、diptyque創設当時に手がけたプリント生地に名付けられたものです。ブランドを共に起ち上げた三人の仲間たちが意図したのは、何よりもまず、自分たちの描くドローイングや絵画、グラフィックデザインの技術、アートやさまざまな伝統工芸に傾ける情熱を生かすことでした。

Christiane Gautrot(クリスチャンヌ・ゴトロ)は、国立装飾美術学校の卒業生。Desmond Knox-Leet(デスモンド・ノックス=リット)は画家。ルーブル学院出身のYves Coueslant(イヴ・クエロン)は、当初は舞台美術家として、後に舞台監督として劇場で働いていました。何年もの間ファブリックデザインの仕事に関わっていたデスモンドとクリスチャンヌは、そのキャリアを何かに生かせないかと考えました。

そこで三人はプリント生地の制作を始めるのですが、当時、抽象画や現代美術に影響を受けたジオメトリックな柄はかなり珍しいものでした。その色調はナチュラルで、オークル、黒、ポンペイレッド、インディゴなど、植物由来の色は古代のモザイク画や陶器を連想させます。三人のアーティストたちは、旅先から持ち帰った品々、とりわけギリシャやトルコのオブジェにインスピレーションを得ていたのです。

プリント・コレクションの制作は、素材抜きには語れません。三人が選んだ生地は、フランスとドイツ国境近くの山岳地帯、ヴォージュ県にある工場で作られた高品質のコットン。ドイツから輸入された染料を使ったプリンティングは、アルザス地方のオー=ラン県で手作業によって行われました。こうした製造業者との密接な関係によって可能となるコラボレーションも、diptyqueの特色のひとつです。

楕円形のモチーフが印象的な「プレトリアン」という名のプリントは、彼らの愛する古代ローマ時代をイメージしてデザインされました。“プレトリアン”と呼ばれる古代ローマの近衛兵が楕円形の盾を使用していたことにちなんで名付けられたこの楕円形のモチーフは、やがてdiptyqueを象徴するビジュアル・イメージとなり、ロゴにも使われるようになります。「プレトリアン」は、セールス的にはあまり成功しませんでしたが、ブランド史上もっとも有名なファブリックとして高く評価され、現在、パリにある装飾美術館に収蔵されています。また「バジル」も特筆すべきプリントで、ド・ゴール大統領の記者会見の背景に使われたことで知られています。

diptyqueがデザインしていたのは1963年までですが、プリント生地はその後十年間にわたって販売されていました。最後の作品は1969年に発表された「Fuchsias(フューシャ)」。アールヌーボーの影響を受けたデザインで、創業者の一人、デスモンド・ノックス=リットと才能豊かなインテリアデザイナー、アンドレ・プットマンとのコラボレーションによるものでした。