ニンフたち

26.07.2018
Le Bernin (1598-1680) - Apollon et Daphné (1622-1625), Galerie Borghèse, Rome

Le Bernin (1598-1680) - Apollon et Daphné (1622-1625), Galerie Borghèse, Rome

ところで、狂おしいほどに美しく、永遠の若さを保ち、いつも陽気で遊び心にあふれている、何かと語られることの多いこの「ニンフ」とは、いったい何者なのでしょうか。古代ギリシャやローマの神話には、そんな絶世の美女が数え切れないほど登場し、住む場所や出会う場所により、さまざまな名前で呼ばれています。

川は歌いながら渦を巻き、泉からはハミングが聞こえてきます。風に揺られる木々のざわめき。洞窟で踊る影。草原のささやき。激しい海鳴り。轟く水音。そして、急峻な山々の凛とした静けさ…。ニンフたちはいたるところで、あてどなくさまよいながら、遊び戯れています。

ニンフは決まって、若く細身で、半裸の女性の姿をしており、優雅な微笑みをたたえ、背後から甘くささやきかけます。振り返ってみても、そこには岩や木が佇んでいるだけ。けれど、そこには確かにニンフたちがおり、歌い、踊っているのです。それだけではありません。自分たちを捕らえようとする人々を驚かせ、彼らの心を愛で満たしたり、想いを拒み、逃げたりします。

ニンフとは、神々から生まれ、自然を擬人化した存在であり、その力や素晴らしさ、無限の広がりや動と静といった要素を体現しています。そのため植物や水辺の生き物、さらには鉱物が豊かなのは、ニンフたちの恩寵によるものといわれています。

ニンフは精霊であり、神々よりも下位の存在です。しかし、上位の神々の欲望に火をつけたり、それとは反対に、まれにではありますが人間に恋心を抱くこともあったそう。またときとして、ディオニュソスを崇拝し、踊りながら太鼓を打ち鳴らした狂乱の女信徒たち(マイナデス)のように、神々の従者を務めることもあります。

ニンフたちの恋が原因で、ギリシャ神話における系譜は、偉大な英雄から神族、さらには人間まで続いています。ニンフたちはなかなかの発展家ですが、ぞんざいに扱わないよう、気をつけなければなりません。正気を失わせるような、恐ろしい一面もあるのですから。恋にもルールが必要というのは、古代ギリシャでも同様でした。ニンフたちは、樫の木を切り倒した人間に復讐したこともあるのをお忘れなく。いくつかの伝承によると、ニンフのなかでもドリュアスは自らの宿る木が枯れると消滅し、その寿命は棕櫚の9倍なのだそうです。古代エジプトにおいて、この木は豊穣を象徴し、オリーブの木とともにアポロンに捧げられていました。愛の神エロスが放った黄金の矢によって、このアポロンはニンフのダフネと恋に落ち、反対にダフネにはその愛を拒絶させる鉛の矢が放たれました。アポロンは、ダフネを追い続けますが、恋は成就せず、ダフネはその身を月桂樹の木に変えることで、アポロンの熱を醒ましました。その後、アポロンは月桂樹の冠を身に着け、あえなく散った恋の証としました。

私たちの住む地球は、自然のままに保たれているかぎり、ニンフたちの戯れる場所であり続けるでしょう。そしてまた、「ニンフ」という言葉のもつ華やかさも、永遠に続きます。ニンフとは長い間、崇拝の対象となる、若く美しい娘たちのことを指していました。女性らしいほっそりとした体形は、確かにニンフのものです。その言葉は、良くも悪くも、隠れ場の隠喩であり、行き過ぎた行為の前触れでもあります。ですから、街の街灯までもが、冥界のニンフであるランパスたちの掲げる松明の明かりであると言えなくもないのです。