ドソンの夢

27.06.2016
Tonkin, Doson, La Pointe (carte-postale)

Tonkin, Doson, La Pointe (carte-postale)

ドソンは、ベトナム・トンキン湾ハイフォン近くにある海辺のリゾート地です。街のうだるような暑さをやわらげる、爽やかな海風が吹くこの地は、イヴ・クエロンにとって、とても思い出深い場所。『Do Son(ド ソン)』と名付けられた香水は、そんな彼の子供時代の懐かしい記憶に捧げられました。

イヴ・クエロンの両親はフランスに生まれましたが、当時フランスの植民地であったトンキンに移り住みます。戦争による時代の変遷につれ、アジアへと目を向けた彼の父親は、この港湾都市に恋をし、そこに暮らしたいと思うようになったのです。しかし、母親にとってはあまり住みよい地ではなかったかもしれません。イヴ・クエロンは、母と、母の愛した花々を思い出します。中でも記憶に残っているのはカイ・ホア・ホエ(cây hoa hòe)…まばゆいばかりに白く、くらくらするような芳香を放つテュベルーズ(月下香)の花です。目に浮かぶのは、ドソンの沿岸に建てられた小塔。それは高床式の小さな別荘でした。欄干のついた水際の遊歩道、すぐそばの紅河デルタを縁取るレモンの木々を映す海の色…。風や陰影と共に、打ち寄せる波の音や夕暮れの香りが生き生きと蘇ります。そこにはいつも甘く濃厚なテュベルーズの香気が満ちていました。

『Do Son(ド ソン)』は、こうした記憶から生まれました。これまでテュべルーズといえば陶酔感のある強い香りのものが多かったのに対し、このフレグランスは、茎のついたままのテュべルーズの花を思わせる、植物の自然な香りを再現しています。べトナム・テュべルーズ(別名インディアン・テュべルーズ)のやさしくみずみずしいグリーン。バラとオレンジの葉が歌うトップノート。ベースノートは、アイリス、安息香、ホワイトムスク、最後に躍動感のあるピンクペッパーが香り立ちます。

爽やかさと湿り気がほどよく調和する『Do Son(ド ソン)』。そのハーモニーは、嗅覚に残る思い出を表現したものです。水気を含んだ空気、そこに突如訪れる、テュべルーズの香り漂う一陣の心地よい風に癒されるのです。