スマイルマーク?

19.01.2016
Christian Morgenstern - Fisches Nachtgesang

Christian Morgenstern - Fisches Nachtgesang

スマイルマークでも顔文字でもありません。実はこれ、クリスティアン・モルゲンシュテルンによって書かれた詩。原題は「Fisches Nachtgesang(夜に歌う魚)」。静寂な、しかしどこか雄弁でもあるこの作品は、カリグラムと呼ばれる詩形なのですが、これについては後ほど触れましょう。

diptyqueのキャンドル「cyprès(シプレ)」のラベルもまたカリグラム。5つの文字が“cyprès(糸杉)”を思わせる円錐の形に並んでいます。このラベルは、カリグラフィー、暗号、あらゆる書き文字や言語、視覚アートを愛したデスモンド・ノックス=リットへのオマージュ。彼は第二次世界大戦中、翻訳、さらには暗号解読の仕事にも従事したようです。後に画家となり、1993年に亡くなるまでdiptyqueのラベルや文字をすべてデザインしていました。 

カリグラムとは詩句や文字で図形を描く詩のスタイルのことで、多くの場合、その図形は詩のテーマを表しています。世界最古のカリグラムとして、古代ギリシャの詩人、Simmias de Rhodes(ローデス島のシミアス)による「Pteryges(翼)」という作品が存在しますが、カリグラムと名付け世に知らしめたのは、フランスの詩人、ギヨーム・アポリネール(1880-1918)。アポリネールは世界的に有名なカリグラム作品をいくつも創作しましたが、中でもエッフェル塔を描いた作品は時代への反抗を表現した彼の代表作です。他にも恋人ルーへの熱情を綴った詩や動物詩集などを残しました。

現代美術の登場以降、カリグラムは視覚表現としてだけでなく、詩のジャンルとしても認知されるようになります。アポリネールは「音楽、絵画、文学…あらゆるアートの統合」を模索していました。

クリスティアン・モルゲンシュテルンの「Fisches Nachtgesang(夜に歌う魚)」の表紙にもこうあります。「具象であり、かつ抽象である詩作」。その流れは後に音楽の概念をも覆し、現代音楽の作曲家、ピエール・シェフェールとピエール・アンリ、さらにカールハインツ・シュトックハウゼンにも影響を与えました。diptyque創業者たちは二人のピエールに影響を受けたシュトックハウゼンの大ファンで、パリで行われるコンサートには欠かさず訪れていました。

文字とイメージ。すべてはつながっているのです。