エド・ルシェ

05.04.2018
Ed Ruscha - Thirty Parking Lots, 1967 © Ed Ruscha. Courtesy Gagosian

Ed Ruscha - Thirty Parking Lots, 1967 © Ed Ruscha. Courtesy Gagosian

エド・ルシェは存命するアメリカ人アーティストのなかでも最も偉大な人物の一人に数えられ、その絵画やデッサンは半世紀以上にわたり、世界中の批評家から高く評価されてきました。ネブラスカで生まれ、オクラホマで育ち、1950年代末以降は南カリフォルニアで活動。キャリアを通して、絵画、写真、版画、デッサン、映画を手がけていますが、その多くが建築や都市の風景、自動車文化をテーマにしたものです。これらの作品はロサンゼルスでの生活に触発されて制作され、写真や背景に重ねられた日常会話で使われる何気ない言葉やフレーズも、それを表しています。

ルシェは火薬、血液、チョコレートシロップなどの変わった素材を用いた絵画やデッサンで知られるほか、言語の衰退やポップカルチャーに蔓延する陳腐な決まり文句を取り上げ、関心を集めました。ルシェを、20世紀後半のアメリカ文化におけるアイコンやシンボルの変遷を描く、米西海岸の“ポップ”アーティストと捉える人もいます。簡潔なスタイルを特徴とする絵画や紙の作品のモチーフは主に米西部の日常風景で、そのなかでも車社会、ガソリンスタンド、ビルボード、建物の外壁、駐車場、ハイウェイが頻繁に登場します。映画、広告、ロゴ、後期資本主義、戦後の芸術界における紆余曲折なども、1960年代初頭以降、ルシェの作品の題材となっています。

写真作品もまた複雑でアンビバレントです。ルシェは1963年から78年にかけて、16冊のアーティストブックを制作し、そこにはロサンゼルスの街並み、集合住宅や建築物など、自身がこよなく愛したこの街を淡々と撮影した写真が収められています。

ルシェが最初に撮影したのは、ロサンゼルスと彼の故郷オクラホマを結ぶルート66を走っていた際に見つけた、道路沿いのガソリンスタンドでした。このときの写真が何点か、今なお影響を与え続けるアーティストブックのひとつ、『TWENTYSIX GASOLINE STATIONS』に収録されています。モノクロームの写真は、芸術性を排した純粋なドキュメンタリーと見ることもできます。しかし、当時、都市化の波や西海岸の無秩序な市街化の記録に関心を持つ写真家たちによって開催された展覧会『ニュー・トポグラフィクス』と関係していることは確かでしょう。『TWENTYSIX GASOLINE STATIONS』は、アーティストブックの先駆けとして、この文化の発展にも大きく寄与しています。

ルシェのアーティストブックのなかで最もよく知られているのは、1966年に出版された4冊目の作品『Every Building on the Sunset Strip』かもしれません。サンセット大通り沿いに並ぶ建物を撮影した写真で構成され、1973年には同じ手法でハリウッド大通りを撮影しています。それから30年後の2003年、ルシェは同じカメラと機材を持ってサンセット大通りを再び訪れ、35mmカラーネガフィルムで撮影を行いました。1973年に撮影されたモノクロ写真、すなわち過去の記録と、2003年、18kmに及ぶ大通りをパノラマ撮影したカラー写真を並べ、『Then and Now』は生まれました。このプロジェクトの意義、それは時の経過という概念を表現しているだけでなく、アーティストがひとつの写真作品に費やした時間の長さに光を当てたことです。

1960年代から70年代にかけてルシェが取り組んだブックプロジェクトは、写真芸術の発展において中心的役割を果たし、写真作品を通して私たちのイメージする都市景観に大きな影響を与えました。