あいまいな美しさ

04.02.2016
© Terri Weifenbach

© Terri Weifenbach

鮮明な表現は正確でわかりやすい。だとすれば、焦点のぼやけたあいまいな表現はよくないということになってしまいますが、そのあいまいさが主題を引き立てることもあります。

写真の世界における「ボケ(英語:bokeh)」とは、レンズの焦点(被写界深度)の範囲外に生まれるぼやけた領域を意図的に利用した表現手法のこと。撮影するレンズの口径によって効果はさまざまですが、「ボケ」は写真の印象をやわらげ、ぼんやりとした背景とはっきりとした輪郭のコントラストを強調することで被写体を際立たせます。さらに、意図的に全体をぼかして芸術性を高める、逆光を利用して玉ボケを生じさせ幻想的な雰囲気を演出するといった高度な手法も存在します。さまざまなハレーションを利用して生まれる「ボケ」によって、世界はまるで違った表情を見せ、被写体の息遣いが聞こえてくるほどに…印象派画家が用いた手法と同様、見る者に新鮮で鮮明な印象を与えるのです。

「ボケ」という言葉は、日本の版画に使われていた技術「ぼかし(英語:bokashi)」に由来するものです。「ぼかし」によって輪郭や色の境目をあいまいにすることで、絵に奥行きや陰影をもたらします。こうした「ぼかし」の技術は、江戸時代の世相を描き人気を博した版画、浮世絵にも使われていました。

光をまとわせ色彩をコントロールする視覚表現は、香りと嗅覚の関係にも似ています。そこでdiptyqueは、新作オードトワレ「Florabellio(フローラベリオ)」のイメージ写真を撮影するにあたり、光を感じさせるビジュアルを写真家のテリ・ワイフェンバックに依頼しました。

「ボケ」の手法を生かした写真はとてもアーティスティックです。テリの作品は、花や葉、新芽といった細部のクローズアップから野原や森、庭園を撮った風景写真にいたるまで、すべて自然をテーマにしています。彼女が心惹かれるのは、人類と自然が互いに関わり、共存する姿。自然界の香りが、パフュームとなって人類とつながり、共存しているように。

オードトワレ「フローラベリオ」は、リンゴの花の香りにはじまり、やがてベルガモットやモクセイのエッセンスが加わって、ハーモニーを響かせます。ベースノートはコーヒーそしてセサミシード。このパフュームを視覚的に表現したのが、「Lana(ラナ)」と題されたテリ・ワイフェンバックの作品です。ラナとは北イタリア・チロル地域の地名で、彼女はそこで山々を背景に、雲間から差し込む光が照らす花畑や果樹園を撮影しました。まるで光の点で描かれた点描画のようなきらめきを持つ写真は、音のないシンフォニーを奏でるパフュームにもどこか似ています。