『物語の鍵』

06.12.2018
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子供のようにおっとりと話すこの老人は、どんな物語から私たちに鍵を届けてくれるのでしょうか。きわめて忠実な記述、真摯な語り口。しかしその知―彼自身のものではなく、彼が共鳴する知―は、全世界の重みを有しています。彼の物語、それは奇跡へと至った、その人生の歩みなのです。

 

すべての童話には、「昔々…」が付き物です。場所も時も不明の、ある日の出来事。サットプレムの『物語の鍵』の中のお話も、「昔々」の出来事であることが明かされています。しかしそれは、一度きり、長い年月における一回限りの出来事。生きた細胞一つ一つの‘星’の中の、一瞬のうちに絶え間なく存在する無数の単位の、たった一つの物質内で起こる出来事なのです。それはまた、すべてが過ぎ去った後の単なる一回、私たちの全細胞内で絶望的に歌い、いつか人類とともに歌うことを願い続ける、ただ一度だけの始原の波なのです。

 

では、この奇跡的な、自身の内奥に存在し息づく物語の語り手は一体誰なのでしょう。本名ベルナール・アンジャンジェ、1923年生まれ。ブルトン人の船乗りで、インドで「サットプレム」となった人物です。アフリカ、ブラジル、インド、ヒマラヤを巡り、アフガニスタンでは考古学者、アフリカの村でラルースの辞書を売り歩き、インドで入信、路上で托鉢を行っています。劣悪極める環境の南米・ギアナで、ひとり砂金を採取していたことも。ランボーに影響を受け、後にアンドレ・ジッドの文通相手となる詩人でもあったこの反骨の砂金採りは、自身の肉体の深淵に尽きることのない金鉱を見つけます。それは私たち皆に、人間として、ただ全能なる優しさ(唯一、人類に、死後も生き続けることを可能にするもの)に屈服することのみを訴えるものでした。一つの道へと続くこれらの旅路を彼が歩んだのは、人類で最も卑劣な行為を生き延びてから。19歳で対独レジスタンスを行い、ゲシュタポに捕らえられ、尋問の末、彼は1年半もの間、ブーフェンヴァルト強制収容所に収容されました。そこから生還した時、彼は骨と皮だけの状態で、チフスも罹っていました。彼はそこで、「すべてを失った時、人間の中に脈打つもの」を感じたのです。

救済の光が彼を待ち受けていたのは、ベンガル湾沿いの灼熱の街、ポンディシェリにおいてでした。彼はそこで、賢者であり、哲学者であり、詩人であり、預言者であったシュリー・オーロビンドのパートナー、ブランシュ・ラシェル・ミラ・アルファサ、通称「マザー」に出会います。彼に「真実の愛」を意味する「サットプレム」の名を授けたのは彼女です。年月とともに、彼はマザーの無二の聞き役、神秘世界の記録者となり、その現世における死の瞬間まで、彼女に寄り添い続けました。また、書き手であり続け、人間存在についての自身の体験を伝え続けた彼。それは、世界が「すべての物質が素晴らしいもので出来ていて、単に辛く苦しい見せかけの外層に覆われているかのように」「何一つ無限へと向かわず、すべてのものが自分だけの箱で鳴り響く」、「金属的で攻撃的な騒音」となる一方、宗教、イデオロギー、様々な属性等、実体のない精神構造が崩壊したのち、「くたびれたコートに身を包んだ、見知らぬ人間」であった自身の体験でした。

今日私たち人間が、終焉の可能性を知りながら迎えている絶頂期。彼はその終焉が間近なこと、人類の進化を促すには、おそらくその終焉が必要であることを知っていました。「私たちは精神的危機にも、政治的、経済的、宗教的危機にもない。私たちは、進化的危機の中にいる。人間として死に、ほかのものとして生まれる過程にあるのだ。」進化の歴史の中で、魚たちが陸地で、エラなしで生き続けたように…。

ところで、彼は、「マザーは肉体細胞におけるお伽話である」と記しています。えも言われぬその神秘を侵すことなく、彼がその鍵を記すのは、この物語についてなのです。「鍵は生の深淵、私たちの各細胞内の物質の中にある。」サットプレムは述べています。なぜなら、「救済とは肉体的なもの」(マザー)であるからです。「道は存在しません。自分の皮膚に道を穿つのです」(『物語の鍵』)。「揺れ動きまたたき微笑む、この小さな細胞たちは、いかなる頭脳も知り得なかった意識を持っていたのです。気密性が高く、思考し、理性的である頭脳には、天上のあらゆる音が聞こえません(…)つまりそれは、音楽的意識でした。」(同)意識の具現化は彼にとって、溶岩が無限の力で体を通り抜け、体内をかき混ぜながら、些末なもののすべてを溶かし、無にしてしまうような感覚でした。「あなたの体内で、ここからは、生まれたての岩石、(彼に、限りなく優しい「何語でもない声」が、「それでも、ウイキョウの咲く荒れ地に吹く、優しいそよ風のように、忘れられ舞い戻った音楽のように、そっとささやいた」。なぜならサットプレムによれば、この世の苦しみとは、「私たちの偽りの岩石にそっと潜む、この喜び、この愛、この生たりえないこと」であるからです(同)。

 

現在の人類の苦しみに対する提案で、しばしばトランスヒューマニズム(超人間主義)なる用語で括られる技術的な解決策は、彼にとって「改良された骸骨」のように、開花するにはほど遠いものでした。つまりそれは、生とは何の関連もない‘無’であり、死に偽りの手直しを加えたに過ぎないものだったのです。サットプレムはシュリー・オーロビンドのこの予言的思考「人間は、進化途上の移行する存在である」の証言をしています。「私は生まれ出ずる世界の、根絶されゆく古い世界の、自らの体内に創出する新しい世界の闘士なのだ。」

 

「マザーとシュリー・オーロビンドは私に、生き延びること、そして、もはや古い‘改良された人類’とは別の‘未来の場所’を見つけることを課した。」重要なのは、「今回、これを最後として、力強い火―すべてを変えることが可能な、肉体細胞の深奥にある崇高な力、新しい地球を再び創造し、かつての絶望の淵で、永遠に肯定の叫びを上げさせることが出来る、このすばらしい‘地震’―を引き出すこと」。そしてこれが、‘物語の鍵’なのです。

 

 

サットプレム著『物語の鍵』(ロベール・ラフォン出版)

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