河原温

16.06.2017
On Kawara, May 1, 1987, acrylique sur toile, 154.9 x 226.1 cm. (© Christie’s images, 2017)

On Kawara, May 1, 1987, acrylique sur toile, 154.9 x 226.1 cm. (© Christie’s images, 2017)

ポール・ニザンによる寄稿

黒、赤、青…単色で塗られた長方形のキャンバスの中央に、白い数字が記されています。年月日。ただ、それだけです。これらは、半世紀近くをニューヨークで過ごした日本人アーティスト、河原温(1933-2014)が1966年1月4日に開始した『日付絵画』です。河原は、“Today”と題したこのシリーズをおよそ3000枚、8種類のサイズのキャンバスに描きました。日付は制作日を示し、そのとき彼が滞在していた国の言語で表記されています。Jan. 4, 1996、ニューヨーク。6 Jun. 68、メキシコシティ。June 5, 1973、ハリファックス。24. März 1976、ベルリン。4 Août 2006、モンファヴェ。21 Juni 2007、アントワープ…ひとつの作品から次の作品へ、放浪者の旅を追体験するかのように。最初の『日付絵画』制作からしばらくして、河原はそれぞれの作品を手製の箱に入れることにし、蓋には制作当日に滞在先で発行された新聞の切り抜きを貼りました。

Today(今日)。それが、河原温がキャンバスに描いたものでした。「今」そして「ここに」。この日、この場所。追いかけあうように連続する日付が描き出すのは、生涯を通してジャーナリストやカメラマンから身を隠した、謎めいた芸術家の姿でしょうか。『日付絵画』は、河原作品の一部に過ぎません。そっけないタイトルのシリーズがいくつかあり、たとえば『I am still alive』。“I am still alive(私はまだ生きている)”とだけ書かれた電報を、アート界の著名人に送るという作品です(晩年は電報ではなくツイッターを使用するようになりました)。河原がその日に出会った人々の名前が白い紙にタイプされた『I met』。河原の起床時間が刻印された絵葉書を世界中から送る『I got up』。こうしたシリーズすべてには、共通している点があります。それは、つかの間の存在をとらえようとする執念です。

制作期間は1日 – 24時間以内に完成しなかった作品は廃棄されます。『日付絵画』は厳格な手順にしたがって制作され、それは一種の瞑想のようなものでした。河原は制作の際、形式に則った完全な状態に達するまで数時間を要しました。こう言うと、時間的な制約がある中で『日付絵画』はステンシルあるいは印刷されたのかと思われるかもしれません。しかし河原は、キャンバスの表面を、深く、濃く、かつ完全に均一になるまで幾層にも塗り重ね、その上の文字や数字も、細心の注意を払いながら自らの手で描いていました。

『日付絵画』の独自性のひとつは、その先鋭的なコンセプトが絵画と対立するのではなく、絵画と共にあるということです。河原は画家であり、自らが描くという点で、同時代を生きたヴィクター・バーギン、ヴィト・アコンチ、ローレンス・ウェイナー、ハンネ・ダルボーフェンら多くのコンセプチュアル・アーティストたちとは立場を異にしていました。彼らの作品は、絵画的な手法とは相容れないからです。一方で河原は、同世代のロマン・オパルカ (1931-2011)とは同志でした。オパルカは、無限に続く数字を同じサイズのキャンバスに刻み込んでいく“Details”と呼ばれるシリーズ作品を、『日付絵画』より1年早く制作し始めていました。彼の作品には、芸術を通じて不可逆的な時間の流れを留めたいという、河原に通じる渇望が見られます。

 

 

ポール・ニザン

クリスティーズ・パリに所属するコンテンポラリー・アートの専門家。